2021/7/22~25      剣岳八ツ峰

 メンバー:HC/IT(L・気象)、OS(装備・会計)、AN(登攀・食担)

  コースタイム:
     22日 16:00六日町IC出発・・・19:30扇沢駅無料駐車場着(前夜泊)
     23日 6:30電気バス・・・黒部ダム--7:00出発--10:10内臓助平--
          12:10ハシゴ谷乗越--13:50真砂沢テント場着
     24日 2:45テント場出発--3:30長次郎谷出合--4:30 1.2のコル取付き--
           6:15 1.2のコル--10:05 5.6のコル--13:15八ツ峰の頭--北方稜線--
          15:00途中の沢を下降し長次郎谷右股へ--17:30剣沢の出合--
          18:10真砂沢テント場着
     25日 6:45真砂沢テント場出発--8:30ハシゴ谷乗越--11:35下の廊下分岐--
          13:20黒部ダム着


黒部ダム 放水
内蔵助平
ハシゴ谷乗越を越えて
剣沢を渡る
さあ、出発
1.2のコルへ
稜線に着いた
2峰
Oさん2峰の懸垂
Iさん2峰の懸垂
3峰 へ
3峰
3峰の懸垂
6峰へ向かう
7峰
八峰到着
八ツ峰の頭
沢を下りて右股の雪渓へ
長い長い長次郎谷
最終日 朝
ダムの下 フィナーレが近い





(記:AN)
前夜、扇沢駅無料駐車場に車を止め、空いているスペースにお宿のテントを2張り。外の空気が気持ちよく、
前夜祭をささやかにとり行い21時過ぎに寝床に着いた。あまりに月が美しく3人で声を上げるほどだった。

朝一番の電気バスに乗りこみ黒部ダムへ。構内を少しうろつきながら黒部川に下る登山道を歩きはじめる。
ダムの放水を橋の上から眺め、いつまでも降り注ぐミストを感じながら歩く。しかし今日は暑い。
途中登山道脇から湧水が出ていて砂漠にオアシス。内臓助平からの平坦な涸沢を延々と登り、
傾斜を上り詰めるとハシゴ谷乗越だ。ここは2020mなので1750mの真砂沢ロッジまでは最後の下りとなる。
剣沢を渡る橋は少し下流に架かっていた。ここからは雪渓歩きも出てくる。途中枝沢に人が倒れていたので
かなりびっくりしたが、あまりの暑さに涼んでいたようだ。真砂沢ロッジに着き、テントを設営し夕餉の支度。
あまりの暑さにIさんは藪の中に逃げ込んだ。小屋で買ったビールをOさんが雪渓に冷やしに行く。
今日のメニューは鰻ちらし寿司。しっかり食べで明日は頑張ろう。剣沢雪渓と源次郎尾根の景色を肴に、
旨いが緊張感も感じながら今宵の宴は幕を閉じ19時にはテントに入った。

24日。出発の準備も早めに整い、さあ出発だ。一番に剣沢を歩きはじめ、早々に雪渓が割れているところを
どう乗り移ろうかとまごまごしていたら、後続のヘッドランプが左岸を行っている。
「ああ、夏道だ」という事でそこまで戻り夏道を行く。1.2のコルへの取付きは丁度いいスペースがあり、
そこで支度を整える。行く手に雪渓も見えたのでアイゼンはそのまま履いていたが、
雪渓上を歩くことはない状況が見えて早々にアイゼンも外した。その頃には太陽も顔を出し、
ルートが良く見えて安心感がある。とは言ってもあまり変な所へ行かないように注意しながらコルを目指す。
振り向けば、剣の山々がモルゲンロートに彩られ、それをバックに二人が笑いながら登っている。
1時間半で1.2のコルに着く。着いたは嬉しいが、ここからが始まりなので緊張感も出てくる。
ゆっくりと確実に掴んでいけば快適に登れる峰々だった。2峰を最初の懸垂で下りる。
みんな緊張もあるが丁寧に確実に下りてくる。今日は、すべての峰を懸垂下降した。支点はいくつもあり、
古い残置もあるので良く見て決めなければならない。峰に立つたびに「ここは3峰、ここは4峰」と喜び合い、
次の峰、特に6峰8峰はどこを登ればいいんだろうと心配にもなったが、基部まで行ってみると
さすがクラシックルート、人の気配を感じるルートを発見できる。

懸垂はシングルとダブルも数回。特に4峰のダブルの懸垂はロープが絡まって途中でまたたぐりなおす始末。
主にガイド登山の2~3パーテイーがいたが、6.4㎜のダブルロープとか、ロープダウンまでのロープ捌きの早さとか、
やはり学ぶべきもの、繰り返し練習の必要があると感じた。
八ツ峰の頭から長次郎谷右股への下降は、小屋の管理人さんからも雪渓の崩落で厳しいという事を聞いていた。
そこをバックステップで下るパーテイーもいたが、見る限りでは雪の割れ方も悪くそこは下れないと判断し、
そのまま北方稜線を行き、途中の沢から右股へ下降した。これは「冒険の沢」と名付けたい。
入り口には新しいハンガーボルトが打ってあったものの、あとは古いハーケンや岩にかかったスリングの残置。
そこを懸垂3回で下ったが、その際にはスリング数本、カラビナ数枚を捨ててきた。
先は見えているが足元が悪くロープが必要、しかも2か所は支点は岩しかないという状況だった。
目指した雪渓に着き、そこで再度アイゼンを履き、ピッケルで下る。最初は傾斜があったが
熊の岩を過ぎる頃にはやや緩やかな傾斜になってきた。
下りで出る膝の痛みにこらえきれず鎮痛剤を飲み、先を行く二人を見ながら下った。長い長い雪渓だった。
剣沢を下りながらテント場が見えると、早く着きたいのにまだこのままでいいような、
早く飲みたいのにもっとこの余韻に浸っていたいような気持が体中を満たしていた。

最終日、少し軽くなったザックを背負い、来た道を帰る。台風の進路が本州直撃という話を管理人さんから聞き、
少し雲のある剣の山々に目をやりながら黒部ダムを目指した。黒部川を渡る最後の橋でゆっくり休み、
黒部ダム駅まで一歩一歩かみしめながら登った。
握手。3日間ありがとうございました。みんなと一緒の八ツ峰。感謝です。



(記:IT)暖かき峰
1・2のコルを目指して雪と岩の隙間から取付く。白い夜明けの光に、のっぺらぼうの岩肌が浮かぶ。
ずいぶん久しぶりの岩登りだ! アイゼンを外してもフリクションに自信がもてなく、ホールドを必死に探す。
ルンゼには割れた雪が残っていて危険極まりない。巧みに巻いて行くANさんの後を夢中でついて行く。
登につれ、何かが蘇ってくる感覚が身体を包んでいった。朝陽に迎えられて1・2のコルに到着。
二峰に頭に立つと、鋭い剣岳の岩峰が朝陽に照らされ輝いている。真っ黒な影の部分と強い光のコントラスト。
ああ!このくっきりが剣だ! 自分が今再びここに立っていることが夢のようだ。
木登りのような登攀と空中に浮く懸垂下降を繰り返して、3峰、4峰と越えて行く。
這松の根につかまり、チングルマの花を避けて歩く。緊張と解放の繰り返しが心地良く、
何よりも仲間との会話が嬉しい。こんがらかった50メートルロープ2本をみんなでほぐしてから繋いで空中に投げる。
足が岩壁から離れれば心は空の一部、はるか下の雪渓が眩しい。

一つの峰から次の峰を見れば、とても登れないと思ってもいざ取付くと、わりと登れてしまう。
5.6のコルを難なく通過して、八峰に向かう。七峰に立つと、剣岳の針峰群が紺碧の空に突き刺さり迫って来る。
チンネを登る人の姿と声が映画のシーンのようだ。ヒマラヤ訓練のあの熱いチンネが蘇る。もう!見るだけで十分だ!
ついに八峰の頭に立った。震えるような感激が身体にあふれ、カメラの前で万歳をしてしまう。
写真を撮り会う仲間たちの姿が景色に溶け込んでとても柔らかい。
夕暮れの淡い光の中、だれもいない長次郎谷の雪渓を下る。
満たされて。切なき風に吹かれて。



(記:OS)
ITさんから、ハシゴ谷乗越を越えて真砂沢にベースを張り、劔八ッ峰をⅠ・Ⅱのコルから登るという
お誘いをいただいた。一昨年、Ⅴ・Ⅵのコルから劔山頂まで歩いて、かなり恐ろしい思いをしていたので、
あの急峻な痩せ尾根を2倍の長さ歩くなんて、「俺には、無理!、無理!」と、最初は躊躇した。
しかし、二十歳の頃(遥か40年以上前)入っていた山岳会の夏合宿で、内蔵助谷からハシゴ谷乗越を越えて
真砂沢に入り、Ⅵ峰を登った時のルートを再訪してみたくなった。さらに、Ⅱ峰からⅤ峰までの未踏部を歩いて、
八ッ峰を完登したくなったことから、勇気を振り絞って参加を決意した。
(中略)
そして、無事に帰還することができた今、振り返ってみると、Ⅰ・Ⅱのコル取り付き(岩棚)からコルまでの間が、
予習ではやや厳しいかと思っていたが、ANさんの経験豊富なルーファイのおかげで、ベストルートを取りながら、
危なげなくコルにたどり着くことが出来てひと安心。
そして、Ⅰ・ⅡのコルからⅤ・Ⅵのコルまでは、予想に反して、難しいところが少なくて楽な感じがした。
逆に、一昨年歩いていてやや安心感のあったⅤ・Ⅵのコルから八ッ峰の頭までの方が、
恐怖を感じる場面がいくつかあったように思う。

そして何と言っても今回の核心は八ッ峰の登下降ではなく北方稜線から長次郎谷雪渓にどこから降りるかであった。
内心、先行していた4人パーティーが、池ノ谷乗越からすぐに雪渓に取り付いて右俣を下降したのが見えたので、
そのルートがいいと思っていた。しかし、最初が急斜面雪渓なことから、我々は左俣の傾斜が緩い雪渓を
選択することになった。ところが、左俣に至る手前の途中の小沢で、不意に見つけた懸垂支点の残置シュリンゲと
真新しいボルトに惹かれてしまい、何とかこの雪渓を降りられるんじゃないかと下降ルートに決めてしまったのが、
苦難の始まり。最初の40mの懸垂は雪渓の上を難なく降りることができた。しかし、その先は雪渓が切れていて
5m程の垂直段差があり、残置シュリンゲがあった岩に補充シュリンゲをつけ足して懸垂下降。
最後にもう少しで雪渓に乗れるというところで、4m程の垂壁が現れ行く手を阻まれてしまった。

懸垂支点さえ取れれば、何の問題も無いのだが、それが無い。皆で思い悩んだ挙句、やや尖がり不足の大岩に
シュリンゲを5本程つなげて引っ掛けて、外れないように押さえてもらいながら懸垂し、
何とか無事雪渓に着地することが出来た。最後がハラハラの支点で、ここが今回のハイライトであり、
クライマックスでもあった。3人合計で残置したカラビナ3枚とシュリンゲ10本程には代えがたい、
無事な帰還だったなあと、皆で喜び合ったのは言うまでもない
。 八ッ峰の登高は、真っ白な雪渓と真っ青な空に挟まれ、行けども行けども鋭く尖り続け、
我々の心身を激しく躍動させてくれた。非日常的な空間にどっぷりと浸かり、夢心地を味わいながら、
その厳しくも素敵な峰の登高に15時間も没頭し、全身を委ねることが出来、 この上ない充実感、達成感、満足感となった。それらの想いを、共に感じさせてくれた、ITさん、ANさんに
心から感謝の意を表したい。思いつけねぇ、いい思いをさしてもらって、ありがとうございました。