メンバー:TH
日程:4月・21日・22日(曇り→快晴→晴れ)
山毛欅沢山~城郭朝日山 55年間気になっていた山
山岳会の仲間でも、山毛欅沢山や城郭朝日山を知る者は少ない。この二つの山は、5万図を眺めていて気づいた。
15歳だったか16歳だったか、それ以来ずっと気にしていたが、年齢に急かされて歩いた。
様々のドラマがあった。只見線の不通、タクシーの手配、残雪の量、眼鏡の紛失、新鮮なクマの糞や足跡、
強烈なヤブ、崩落した尾根・・・。
登り口に着くと、目指す尾根には一片の雪もなかったが、かなり明瞭な道跡らしきものがあった。
1000m辺りから雪を拾えるようになったが、ペースは上がらない。憧れ続けた山毛欅沢山は、変哲もない藪山だ。
後方の窓明山から坪入山が白く輝いて、疲れを慰めてくれた。稜線上にはずっとブナの林が続き、
丸山岳や会津朝日は、木間越しである。黒谷側から吹き越す風が冷たい。
下山後は駅まで歩く可能性があるので、できるだけ先まで行きたい。山毛欅沢山からかなり進んだが、
「休みたい。泊まりたい」という思いをねじ伏せて歩いた。頻繁に昨秋のクマ棚や熊の爪痕がある。
広い斜面には、新しいクマの糞があった。適当な雪面にツェルトを張って、体力温存のために、18時には寝袋に収まった。
山の朝、山の端の色が変わっていくのを見るのは最高だ。闇の世界が光あふれる世界に変わる。
カケス、シジュウカラ、ヤマガラの声がする。未知の美しい囀りも聞こえる。雪面はかなり硬い。
朝日を受けた城郭朝日山の東面は崖になっていて、少しの雪しか見えない。東に雪堤が、西にブナの林が続いている。
木の間隠れに、会津朝日岳や大きな丸山岳が見える。鬼ケ面~浅草岳は白い。狢ケ森山から御神楽岳に続く稜線も、
まだまだ白い。飯豊連峰が、北に大きく遠い。
朝日山の肩に、熊の成獣の足跡があった。ついさっき歩いたように見える。登り続けると、
子熊の足跡も現れて、少し怯んだ。足跡は、進みたい方向に続いている。熊スプレーを、臨戦態勢にして登った。
傾斜の強い所は、親熊のステップを利用したから楽だった。山頂近くで、熊のトレースはブナの林に消えた。
城郭朝日山の頂を踏んだので、あとは下るのみだ。下りはそれまでのブナの尾根とは変わり、
狭くて雪がない五葉松と常緑樹の稜線だ。下った尾根には、シャクナゲの林が続き、
「ヘルメットのみでなく、サッカーの脛あてを持参すれば良かった」と思った。
体中に引っかき傷とミミズ腫れができた。細い尾根の岩はもろく、所々は崩れていた。
尾根の末端では崩壊がはなはだしく、雪の落ちた斜面を、ブッシュにすがって林道まで降り着いた。
多くのデブリを、黒谷川に落ちないように気を付けて通過し、好ましい昔の家の形を残している集落に辿りついた。