2013/6/2 「会山行」谷川岳一ノ倉沢南稜

  メンバー:(CL)ON・IM・OS/(SL)MM・OS・NY
  出合7:45・・南稜テラス8:55・・終了点12:40・・南稜テラス14:40・・出合16:20




「ちびりそうな馬ノ背の高度感、最高!」
もう2度とこの一ノ倉沢の地に足を踏み入れることはないだろうと思っていた。みちぐさに入会させていただいた当初も、自分がまた岩登りをするとは考えていなかった。三十数年も前に、初めての二ルンゼでいきなり岩場ビバークになってしまって以来の一ノ倉。あの恐ろしい一歩間違えば常に死と背中合わせの状態が数時間続くという、日常では想像しがたい境遇に直面するわけだ。 しかし、入会の動機のひとつである沢登りをするためには、南稜を1本登っておくとすごく沢が楽になって効果絶大とのこと。そして、事前講習会での会長の厳しくも優しい指導を受けているうちに、この人のリードなら大丈夫との確信を得たこともあり、心はもう南稜の岩に取りついていた。

5:50六日町IC出発。NYさんは、翌日から笛吹川遡行のため、現地集合とのこと。高速からの眺めは、早苗が植えつくされ緑色に染まりつつある田園風景が印象的であった。関越トンネルを抜け、群馬の天気もまずまず良好。水上からは、谷川岳の双耳峰が朝日に照らされて赤味を帯びていた。

谷川岳ロープウェー駐車場から7:00に歩き始める。これから起ころうとする恐怖な出来事に対する不安と少しばかりの期待感等のため、ブナ林の素晴らしい新緑や景色があまり目に入らない。その割に足取りも軽く、一ノ倉出合7:45到着。良く晴れ渡り、大岸壁の全容に圧倒される。すぐに雪渓に入り、滑らないように少しキックステップ気味に進む。徐々に近づく衝立岩、その左に続く名前はわからないが有名ルートの数々に息を呑む。
雪渓を過ぎ尾根筋に取り付くと暑い暑い。汗がダラダラ。ここが中央稜へのテールリッジというところか。けっこうな岩場をフリーでぐいぐい登っていく。右が衝立スラブ、左が烏帽子スラブ。途中、NYさんが中央稜への起点を教えてくれる。かなりの急斜面を、1パーティーが取りついていた。恐ろしい。ここから、スラブのトラバースとなるが、登り勾配なのでスムーズに進む。帰りは、滑りそうで少しいやらしい感じ。 そして、ようやく8:55南稜テラスに到着。ここが、かの有名な広場か。2パーティーほど順番待ちをしていた。ここまでが暑くて疲れたので、休憩と腹ごしらえ、登攀装備の支度時間にちょうど良い。1週間前に、基本的な指導は受けたが、やはり本番はなんとなく緊張感が高まってくる。ただ、あまり緊張しすぎても体が硬くなって、クライミングがスムーズに進まなくなるので、ほどほどの緊張に抑えた。しばらく振りで、少し面白さへの期待感があるのだろうか。




会長の安定したリードに続き、9:40セカンドでスタート。落ち着いて、確実なホールドを探しながら進む。まもなく話に聞いていたチムニーに来た。さて、背中を壁面に押し着け少し踏ん張ると、思っていたよりも容易に体が上がっていった。やはり予備知識・事前情報は大切であった。ここを過ぎると難なく1ピッチ目終了。
今回のために、パーマークでいくつかの登攀具を仕入れてきた。ヌンチャク・ATCは、使い勝手が良く優れものであった。特に登攀シューズは、安定感抜群。昔、重登山靴で登っていてそれが当たり前と思っていたのだが。ただ、つま先に力がかかりやすいようにサイズよりも小さくできていて、普段は26.0cmの足なのに、今まで履いたことのない28.0cmを買っても、まだつま先がきつかった。 2ピッチ目は、IMさんトップで進む。ここは途中、少し解放感があって、1箇所落ちると怖いなと思うところがあった。その後、草つきをフリーで進み、その先は、短いピッチ。4ピッチ目は、馬の背状で解放感・高度感満点である。5ピッチ目も1箇所怖いところあり。最後は、急勾配フェースの核心部で、IMさん本日2回目のトップ。途中、もう少しで終了点という少し手前で、トップが難渋している様子。実際通過してみると、ホールドが心もとなく、恐怖感抜群。これをトップで行くのは、大変だ。IMさんの苦労が忍ばれる。なんとか、不十分なホールドでかきあがる。そして、12:40終了点に到達。ホッとすると、目の前にブログで見覚えのある烏帽子岩がそそり立っていた。

入会後間もない頃、例会後の宴席で、会長より「何故山に登る? 山の何が面白い?」と、昔からよく語られている問いかけがあった。その時、自分は「山の中での日常では味わえない景色・草花や自然景観が良くて」と答えた。会長は、「生死に直面したギリギリの場面で、自分の体力・精神力でそれを乗り越える面白さにある」と。冒険者魂の真髄を見たような気がした。この岩登りも、その面白さのひとつなのであろう。 さて、後続パーティーを待ちながら懸垂下降の準備をする。会長が、下降点の支点で下降準備。ザイルを投げ最初の垂壁をするすると降りる。2番手はIMさん。そして、私の番がくる。垂壁は予想外に怖くなく下降できた。今の下降器は優れていて楽だなあ。6ルンゼの中はバランスを取りづらく、会長からさかんに足をつっぱれと檄をいただいた。左側に振られないように注意するところもあったが、難なく下降できた。2回目からは、後続パーティーが下降後に回収したザイル2本をザックに入れて、降りたら次の下降ザイル準備をするようにしたので、少しは下降の時間を稼ぐことができた。最後の4回目のピッチは、ザイルの長さが少し足りなくて、ほんの2~3mフリーでテラスに降りたが、ザイルがないと不安定で、バランスを崩して転びそうになってしまった。懸垂酔いしたのだろうか。
さて、14:40テラスに到着してひと安心しながら後続を待つ。登攀用具を片付けて腹ごしらえをしながら、後続の下降を見守るが、最後にアクシデント発生。最後尾の宮さんが下降を終了し、ザイルを引っ張るとなんと途中のチムニーの上のあたりで引っかかって降りてこない。困った。会長が回収に行ったが、途中で後続の他のパーティーが下りてきたので、外してもらった。結び目もないザイルが引っかかるなんてめったにないことと思うが。ザイル回収が終了し、南稜が終了した。
登攀用具をかたづけ、テラスで記念写真を撮って、15:30岐路に向う。さあ、問題のノーザイルの下り。しかし、思ったより楽に下ることができた。ややフィックスロープには頼ったが。16:00雪渓までくればもう安心。16:18一ノ倉沢出合を通過し、帰りの舗装路は、朝の未知の世界に入り込むような不安感・恐怖感はなく、満足したなあという足取りとなった。そして、正面には白毛門・笠ヶ岳の山頂が西日に照らされて、残雪と新緑とともに輝いていた。

17:40諏訪峡温泉に入り、ロビーにてノンアルビールで乾杯。車中から振り返ると朝は谷川双耳峰が良く見えていたのに、今は雲がかかっていた。またいつか、この地に来ることがあるのだろうか。疑問と不安と期待感と満足感と、複雑な心境での帰り道であった。  (記)O・S

 る俳優さんが言っていました。「初めての経験が、その後のすべてを凌駕することが、人生にはあるものだ」と。 山を始めた時から長い憧れだった一ノ倉。今年6月のアルパイン初挑戦は、「今までの山登りは何だったのだろうか?」というほどの強烈な体験でした。
実際は、MMさんが全ピッチをトップで登り、私は登ったというより連れて行ってもらった立場ですが、岩に取り付いている時は夢中で、とにかくどうやってギアを回収しながら進むかしか考えていませんでした。覚えているのは、1ピッチ目のチムニーを大股広げて抜けたこと、4ピッチ目でザイルの流れが止まってしまったこと、馬の背で全身いっぱい伸ばしてクイックドローを回収したこと、最終ピッチでたまらずスリングをつかんで越えたことです。

下山での懸垂下降は、ザイル1本で天空にぶら下がっている生命の浮遊感を味わいました。まるで空中に漂う木の葉になったようで、今考えるとこの世の空間ではない、別世界の出来事のように思います。

無事南稜テラスに降り立った時に見上げた、滝沢スラブを始めとするすさまじい景観は、今まで眺めるだけの場所だった岩場から、いつかは挑戦すべき課題へと新しいステージに移ったのだと実感しました。
テールリッジから雪渓に降り、「谷川小唄」を大声で歌ったことは一生忘れられないと思います。「みちぐさ」に入って良かった、山をやっていて良かったと心底思いました。同時に克服すべき課題も多く見つかりました。

とにかく岩登りは、体力があるとか歩くのが速いなどということはまったく通用しない世界なのだと実感しました。「経験を積み、いつかはトップで登れるようになりたい。」新たな目標も見つかり、大いに夢の広がった山行でした。
 (記)N・Y