みちぐさ会山行 仙ノ倉山 北尾根 2023/3/4~5

メンバー:(L)KN.(SL)IT.OS

コースタイム:3/4 湯沢町役場近く7:30―JR湯沢駅発8:14―土樽駅~毛渡橋登山口9:00~
         群大ヒュッテ前 バッキガ平11:00~小屋場ノ頭(テン場)着12:15~
         雪洞掘り完了14:00~宴

       3/5 起床5:10~小屋場ノ頭出発7:00~シッケイノ頭9:10~仙ノ倉山の手前ピーク10:32 ~
         平標山12:05~松手山経由~元橋ヒュッテ前バス停14:45―
         バス乗車15:55―湯沢駐車場16:40解散




【記 OS】 憧憬の仙ノ倉北尾根

仙ノ倉北尾根は、吾策新道・茂倉新道や日白山から良く見え、昔から興味をそそられていた。
どっしりとして風格のある仙ノ倉の山体から、北に派生した長大に連なる美しい尾根で、
登山者の登高意欲を否応なしに搔き立ててくれる。
当初の会山行計画では、大源太ブドウ尾根だったが、この尾根に変更となった。ちょうどこの時期、
県連山スキー交流会の蓬峠がぶつかってやや気持ちを揺さぶられはしたが、初志貫徹で参加決意を固くした。

毛渡橋の冬期駐車場の混雑を想定し、湯沢駅からJRで土樽駅へ移動する。毛渡橋に来ると、
案の定5台で満車となっていた。橋脚にレトロ感の残るJR鉄橋をくぐり、
間もなく棒立山方向へのトレースと別れ左折する。だだっ広い毛渡沢左岸をゆるゆると進む。
3パーティー程が先行しているようで、トレースが固めなのでツボ足で歩ける。郡大ヒュッテ前でワカンを装着。
西ゼン方面へのトレースを見送り、いよいよ対岸の尾根に取り付く。これが憧れていた北尾根の起点だ。
いきなり急登となるが、先行者のステップのお陰でさほどの苦も無く、尾根筋に乗り上げられた。
トレースの有難さが身に染みつつ、グングン高度を上げる。振り返るとバッキガ平が広々としていた。
空は薄雲が広がってキリっとしない模様だが、今日はこの程度でいい。明日さえ良ければ。

ひと登りすると、あっけなく小屋場ノ頭に着いてしまった。先行の6人パーティーは鞍部の先の上り坂手前で幕営し、
その先に2人組が登高を続けている。我々は、小屋場ノ頭の南側に発達した雪庇を活用できるこの地を幕営地とした。
ITさんとKNさんが、せっせと雪洞堀りを始める。自分はテン場の掘り下げ、整地に精を出す。
辺りはすでに真っ白にガスってきて、小雪がぱらついてきた。快適な雪洞が完成し、そこで今宵の宴を繰り広げる。
ITさんとKNさんは、冬期雪中泊は百戦錬磨の強者である。ところが、自分は何と約40年振りの雪上テン泊で、
これが今山行の核心部であった。寒くて眠れるかどうか、軟弱な心身が心配だ。
だが足のつま先と背中にホッカイロを貼ったおかげで、何とかウトウトと眠ることができた。
夜中に目が覚め、いやに明るいなあと思って外に出ると、満月と星空で白銀の山並みに身震いした。
正面には仙ノ倉、その左に万太郎が不気味に白く輝いている。これこそが山中泊の醍醐味である。

5時過ぎに起きると、テントの内張りに霜がびっしりと白くなっていた。自分の息の氷結か、昔懐かしい感じ。
そそくさとラーメンを掻き込み、割箸ペグを掘り出して、テントの撤収に精を出す。雪洞は撤収が早いので、
遅れを取ってはならない。予定通りの7時に出発。尾根筋には、先行者のトレースが気持ち良さそうに伸びている。
昇り始めた朝日に照らされながら、稜線を歩くのはこの上なく気持ちがいい。後ろを振り返って景色を堪能しながら、
どんどん高度を稼ぐ。タカマタギの稜線や長釣尾根が一望だ。万太郎や茂倉も見渡せて、高度感が増してくる。
そして、いよいよシッケイノ頭への登りとなる。念のためザイルを持参したが、長爪の12本アイゼンが
クラスト斜面に小気味良く食いつき、ピッケルとの併用で事足りた。直登はアキレス腱に堪えるので、
ジグを織り交ぜながら、ひと頑張りでシッケイノ頭に到着。この界隈には、「〇〇の頭」と呼ばれるピークが
数多くあるが、ここも展望のいい所であった。一段と眼前の山並みが迫り来て、しばし山座同定しながら一息入れる。

会の仲間であったNYさんがKNさんに、「北尾根を一言で表すと“優美”(ゆうび)」とのこと。
なるほど「品格があり上品で美しい」この尾根の容姿に相応しい表現であった。詩人のNYさんらしい。
雪山歩きの楽しさをしばらくぶりに思い出しながら、軽快に足が進む。山スキーとは違い、地面を足でしっかり
捉えている感触が、何とも言えず安心感と歩いてる感がある。
シッケイの第1関門を過ぎると山容はたおやかとなり、白銀の世界にどっぷりと浸かる。山頂手前ピークへの登りは
クラスト斜面が長かったが、北尾根を歩ける満足感を味わっていると自然と疲れを感じなかった。

仙ノ倉山頂には山スキーヤーが大勢いるのが見えたので、手前ピークで大休止。上越国境の白い稜線がどこまでも続き
いくら見つめていても飽きることが無い。真っ白い山並みを眺めていると、歩いてみたい衝動につい夢が膨らむ。
仙ノ倉を後にして平標まで来ると、あまりの山スキーヤー・ボーダー・登山者の多さに、夢心地の山歩きから
現実世界に引き戻された。仙ノ倉からはシッケイ沢やイイ沢へ滑る人、平標からは西ゼンやヤカイ沢に滑る人がいたが
今日はそれを見ても“けなるく”は無い。それほど北尾根に満足したのだろう。
その余韻に浸りながら、松手山経由で快調に元橋に降りた。

行きは湯沢駅でスキー客の長蛇の列、帰りのバスも満車で我々の後には乗れない客が多数発生。
こんな下界の混雑が、北尾根での静かな山歩きをひときわ優美な時間として引き立ててくれた。
2年程前に、KNさんに北尾根に行くことがあったら、是非同行させていただきたいとお願いしたことがあった。
車での別れ際にKNさんにひと言御礼を言いながら、突如として涙・・・が込み上げてきた。
同行のベテランお二人に心から感謝と御礼を申し上げます。



【IT感想】

実に36年ぶりの仙ノ倉北尾根。前回は年末に5人の仲間と挑戦したが風雪で退敗した。
それ以来、未完成感が心の底に沈んでいたが、敢えて見ないようにしていた。
それが今回仲間の縁で実現した。それも極上の条件で。

なんの迷いもなくただ高みを目指す。私の肉体でなく魂がアイゼンを着けているような不思議な陶酔感。
一歩一歩登る仲間たちの姿が、まるで映画のワンシーンのように頼もしくかつ格好良く、夢中でシャターを切った。

シッケイの頭を越えると一転して尾根はたおやかになり緊張が解け解放感に浸りながら仙ノ倉山の頂に着いた。
仲間と握手を交わしたら胸が熱くなった。
長年の宿題がまたひとつ終わった。



【KN感想】

The day —雪をまとった真白き山は美しい—

雪山はなんといってもお天気が第一条件だと思うが、
山行日はこれ以上ないくらいの好条件で実施でき、
雪洞泊も良い経験になりました。
かつてNYさんが教えてくれた優美な北尾根の、
圧倒的で広大な空間のなかに身を置いていると、
自然の大きさを感じる反面、人間の小ささや儚さを感じました。

仲間と思いをひとつにして、
ともに素晴らしい空間を共有できたことがとても嬉しかったです。
同行くださいましたお二人にあらためて感謝しています。